「降る雪や 明治は遠く なりにけり」。昭和の初期、俳人の中村草田男が、明治への憧憬(しょうけい)と追憶を詠んだ名句である。
平成も今年で十六年を数え、時代の長さにおいて、大正を超えた。「昭和は遠くなりにけり」との感慨を抱く人も少なくないだろう。
戦争、敗戦、占領、復興、高度経済成長と、日本人にとって大変重みのある昭和という時代を、歴史の教訓として次の世代に語り継いでいくことを忘れてはなるまい。
二〇〇六年から、四月二十九日の「みどりの日」を「昭和の日」に改める祝日法改正案が、自民、公明両党の議員提案で、今国会に提出されている。
過去二回、国会に提出され、いずれも審議未了で廃案となった。民主党は既に賛成に転じている。今国会での速やかな成立をめざしたい。
「昭和」と聞くと、暗い戦争の時代を思い出してしまう。四月二十九日は「みどりの日」として定着している。そんな反対意見も一部に聞かれる。
改正案では、「昭和の日」を「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」日と位置づけた。「みどりの日」は、祝日の谷間の五月四日に移される。
多くの国民が、自然に受け入れられる内容だろう。
四月二十九日は、もともと昭和の「天皇誕生日」だった。昭和天皇が亡くなった一九八九年に、政府はこの日を「みどりの日」とする祝日法改正案を国会に提出し、成立させた。野党から反対意見が出るのを懸念して、「昭和の日」とすることを避けたものだった。
この日の歴史的意義を踏まえれば、当初から「昭和の日」とするのが理にかなっていたはずだ。
その後、「昭和の日」制定を求める運動が活発化した。二〇〇〇年には、今回とほぼ同じ改正案が国会に提出されて参院先議で審議が行われ、参院を通過したが、森首相の「神の国」発言による混乱で、衆院段階で廃案になった。
再提出された改正案は、昨年の通常国会で、初めて民主党の賛成も得て衆院を通過した。参院に送付されて継続審議となったが、秋の臨時国会では審議されないまま、十月の衆院解散で、再び廃案となった。
祝日法改正案成立の条件は既に熟している。審議は十二分に尽くされていることでもあり、後回しにせずに、早急に成立させるべきである。
「昭和の日」の歴史的な重みを踏まえた対応を、与野党に望みたい。
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